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さて、この国は人の手にわたってからまだたった百年と少ししか経ってないのね。
だからまだ記憶が風化していないし、当時から生きている魔女も何人かいる。
もっと言えばこの事を知っている神様もいる。
これは建国宣言の前後、二代目の王になるはずだった王子様のお話ね。
まだこのころは西欧諸国ともまだ疎遠になりきってなかったと同時に、
沢山の妖魔の残党がいて国境線も安定していなかった。
王子様も例外なく戦地に狩り出されたわ。
というか、皆が皆戦わなくては、明日のねぐらのさえも手に入らなかった。
そのなかで王家は二つの選択をしたのよ。
一つは外なる神への助力を請うたこと。もう一つは魔女への助力を請うたこと。
蕃神たちの話は、ここではあまり触れないで、次の機会へ持ち越すとして、
ここで語られているのは魔女への助力の請う話ね。
まず一人目の魔女はマントを求めた。最低限の庇護、追求から身を隠す権利とそれを黙認する義務。
そして二人目の魔女は馬を求めた。これは領内を自由に通行する権限ね。
この二つのものを手にし、その対価として戦力を供給する事で、
魔女会の魔女は今のように黙認され、街中で静かに暮らしている。
三人目の魔女は…王権、ひいては主席祭祀者としての権限を渡すように迫った。
まあそうね、実際王族以上に蕃神との繋がりがあるし、王族以上に向いていたかもしれない。
けれどこれを拒んだ。正統な人間としての自負があったのでしょうね。
それでも、祠を任せる、祭祀を行う権限を与えることで魔女と王族両方の面目を保った。
最後に四人目…これは前の三人とは違う。
まず王子様は王命ではなく自分の独断で力を求めたの。
純粋な想いよね、賢い選択ではないけど。
そして、妖魔である彼女と姻戚関係を結ぶ、王族に引き入れるという契約のもとで上級妖魔に匹敵する恐るべき力を得た。
王子本人は、たぶん気づきもして居なかったか、それがどういうことなのか理解もしていなかったんでしょうね。
それに気づいた蕃神は、王子を泳がせ、残党狩りが終わった所で彼の無策を速やかに伝えた。
打倒した妖魔の領主にも等しい力をもち、妖魔と関係した王子は、そこで自分が何を犯したか気づいたのね。
決して抵抗せずに縛につき、自ら斬首を要求したの。
でも、なまなかな剣では彼の首に傷を付けることすらできなかったし、
情に曇った剣では王でさえ彼の首を落す事は叶わなかったの。
かくして英雄にしてこの国の最大の敵となった王子様は、永遠にこの国の地下に幽閉されることになった。
どこに幽閉されているかって?ちょっと、私には判らないわね。
おばば様たちなら知ってるけど、教えてくれないとおもうし…。
最後の足跡?子供に夜に外に出るなっていう脅し文句よ。
この四人目の魔女がいなくたって、時々妖魔が迷い込む土地だもの…夜外に出ていいのは、身回りくらいね。
だいたい、こんなところかしらね。
さあさ、ゆっくり寝なさいな。お話はおしまい。
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